ストレス-6.プライベートストレス(迎合系)
ここは、Fantasy学部 教室
-連載テーマ「ストレス」の目次-
1.はじめに
2.ストレスの意味と、精神的ストレスの種類(パブリック、プライベート)
3.パブリックストレスの特徴とその解消方法
4.プライベートストレスの特徴と種類
5.プライベートストレス(孤独系)
6.プライベートストレス(迎合系)
7.プライベートストレス(自己承認系)
大人の女性向けの連載テーマ「ストレス」の第6回になります。
今回の記事では、3種類のプライベートストレスのうちの「迎合系」について解説していきたいと思います。
迎合系のプライベートストレスとは
迎合系のプライベートストレスとは、プライベートの人間関係において、「好きでもない相手に気に入られるために自身の個性の表現を抑えている現実」について、意に反した我慢をし続けることにより生じるストレス(以下「迎合系ストレス」という)をいいます。
ex.好きでもない相手から悪く思われないように平穏に付き合っていきたいけど、そのためには言いたいことを言わずに無理しなければならないので、疲れてしまう
迎合系ストレスの発生要因
迎合系ストレスの発生要因は、「プライベートの人間関係において、孤独になることや相手から嫌われることに対する恐怖心」です。
即ち、本心では、「好きでもない相手とは、あまり関わりたくない。関わったとしても、一線を引き、“付かず離れず”のような適度な関わりに止めたい。」という理想を描いているのですが・・・
好きでもない相手が関わりを持とうとしてきた際に、「あなたのことは好きじゃないから、あまり関わりたくありません」という本心を言葉や態度で素直に表現してしまうと、・・・
相手から悪い評価がなされ、場合によっては、相手からシカトされたり、その評価を相手が周囲にまき散らして村八分にされてしまうおそれもあります。
また、孤独系ストレスの記事で説明した特別な相手の不足を感じている時には、このような好きでもない相手からの関わりの申し出であっても、「関わる相手の数は少ないよりも多い方が寂しくないから、まあ、いっか」と許してしまいがちになります。
そこで、こうした悪い評価を回避しつつ寂しさを解消するために、好きでもない相手との関わりを継続するのですが・・・
このような関わりを継続する過程においては、どうしても、自身の個性(好きではないという感情を含む)の発揮を抑え、相手に合わせる表現や行動に終始する等、自身に無理が生じやすいものです。
このように無理して裏返った表現や行動をしている自身の現実について、「本当は自分を抑えたくないけど、嫌われたくないから、やむを得ない。」という我慢や、「ただ疲れるだけ。このような人間関係によって何が得られるのだろうか?」という不甲斐なさを感じてしまう。
こうした理想と現実とのギャップが迎合系ストレスの特徴です。
迎合系ストレスを溜めやすい人の資質
迎合系ストレスは、次のようなタイプの人に溜まりやすくなります。
1)相手の力量や自分の利益を重視
プライベートの人間関係において、人の力量(ex.人望、統率力、仕事の能力、稼ぐ力)に着目し、関わることで利益を享受できそうな相手であって、かつ、自分に精神的な不利益を及ぼさない相手を選びがちです。
そして、この相手に期待しますが、相手に賭けることはしません。
2)八方美人タイプ
プライベートの人間関係において、「好きでもない相手や嫌いな相手にも、良く思われたい」という八方美人的な資質を備えがちです。
「八方美人的な資質」とは
ここで用いている「八方美人」という語の意味が、極めて狭い意味であることを、以下に明らかにしていきます。
そもそも、
「相手に気に入られるために自身の個性を抑えることは、人間関係において当たり前のことであり、“意に反した我慢”というほどの苦役ではない。」
このように言い切れる人は、その相手との関係では、迎合系ストレスが生じていません。このように言い切れるのは、たいていは、その人が、その相手に対し「好き」という感情や主観を持っているからです。
他方、この相手に対して、「好きではない、嫌い」という感情や主観を持っている場合には、・・・
相手に気に入られるために自身の個性を抑えて関わり続けるほど、「本当はしたくないことを我慢している」という認識が芽生えてくるでしょう。
つまり、迎合系ストレスが溜まりやすいのは、このような「プライベートの人間関係において、好きでもない相手や嫌いな相手にも、良く思われたい」という八方美人タイプの人に限られるのです。
「八方美人的な資質」のルーツ
このような八方美人的な資質は、後天的に形成されたものであり、たいていの場合、成人までの間に経験した次のトラウマが形成の基になっているものです。
多数の相手(好かれたいと思っている相手、好かれたくないと思っている相手の双方を含む)に、自分の個性を発揮したら、どの相手からも思い通りに受け入れられず又は興味を持ってもらえず、自分の個性そのままを受け入れてくれる人との関わりに乏しかった。
即ち、こうしたトラウマによって、「自分の個性を受け入れてくれる人は、原則として、いない」というネガティブな自信が身についてしまったのです。
このトラウマにおいて、多数の相手から思い通りに受け入れられず又は興味なしとされてしまったのは、たいていの場合、偶然ではなく、「相手に真正面から向き合って、相手の気持ちを察しつつ、相手を理解しよう」という意思や行動の欠落によって、必然的に起きているものです。
「相手に対する理解なしで、自分を理解してもらおう」という身勝手な考えを許容してくれる相手は、自分の肉親以外には、なかなかいないものですよね。それに、相手と真正面から向き合わずに口先だけで気持ちを察したフリをしても、相手は「こいつ、イカサマ野郎だ」とひっそりと心の中で見抜いてしまうものですし。。。
それ故に、迎合系ストレスを溜める人は、プライベートの人間関係において、次のような、自分が犠牲になったり損したり悪者になったり傷ついたりすることを極度に回避する思考や行動(以下、「迎合特性」という)を備えがちです。
●あらゆる他人に対し、性悪説に立ち、原則として不信、疑心暗鬼
●家族依存過多、拝金主義
●自信家であるが、大勢の前では自信が無い
●自分と関わる他人から、悪く思われたくない
●相手から責められたくない。失敗を自分の責任にされたくない。
●興味が無くても、相手に話を合わせることがデフォルト
●波風の無い穏便な関係を継続したい
●常識人として振る舞い、自身の非常識な価値観や内心が相手に露呈しないように隠す
●お互いの個性が露呈するような話題を避け、「いない他人の話」や「新聞ネタ等の一般的・表面的な話題」に終始する
●「相手と共通の味方となり得る誰か」についての誉め言葉や「相手と共通の敵となり得る誰か」についての悪口を手段として、相手と仲良くなろうとする
迎合系ストレスの重さ
迎合系ストレスは、「プライベートで、好きでもないのに、嫌われないように無理して対応しなければならない相手」が出現した時に生じます。
そして、この後、この相手への対応時間を積み重ねるほどに重くなり、この相手から嫌われたり無視されたりフェードアウトされたりすることによって重くなります。更に、この重さは、このような相手の数に比例して増大します。
逆に言えば、対応する相手が「好きな相手」、「嫌われても構わないと思っている相手」である場合には、たとえ、相手と関わる時間が長く、相手の数が多くても、迎合系ストレスは発生しないか、発生しても軽微なものに止まるのです。
他の種類(孤独系、自己承認系)と比較した相対的な重さ
図2に「迎合系ストレスを溜めやすい人のストレス配分」として示したように、迎合系ストレスは、3種類のプライベートストレスのうちで、相対的な重さが孤独系ストレスよりも重く、その重さがパブリックストレス よりも重くなることがあります。
この理由としては、次の2つを考えることができます。
自己矛盾的な行為をしている自分自身を責めてしまいやすいこと
迎合系ストレスは、「好きでもない相手にも気に入られたいがために、本心を偽った表現をする」という自己矛盾的な行為を伴います。
よって、理想と現実とのギャップが、自身の自己矛盾的な行為に起因するとの自覚をしやすく、「私、何をやっているんだろう…」のように自分自身を責めてしまいやすい(つまり、ストレスを相手のせいにしづらい)のです。
重いパブリックストレスを溜め込みにくいこと
迎合系ストレスは、後述するように、重いパブリックストレスを溜め込みにくい人に生じやすいものです。
このため、このような人のストレス領域は、活用される主用途が、パブリックストレスではなく、プライベートストレス(迎合系ストレス)となります。
つまり、迎合系ストレスを溜めるためのスタンバイができているのです。
パブリックストレスの解消への影響
既述しましたように、パブリックストレスは、その質や量が軽い場合には、プライベートにおける飲酒、読書、TV、旅行、スポーツ、風俗遊び、ギャンブルのような単独での発散行為によっても解消できますが、その質や量が重くなってきた場合には、プライベートにおける相手の存在、即ち、「義務的でなく接してくれる人間関係」や「心の通った人間関係」が不可欠となります。
ここで、既述した迎合系ストレスを溜めやすい資質の人は、実際には、重いパブリックストレスを溜め込みにくいという傾向が見られます。
なぜなら、このような人は、「プライベートの人間関係では、パブリックストレスよりも遥かに重い迎合ストレスが溜まる」ということを自覚しているため、ストレスフルにならないように、職場や家庭等でのパブリックの活動を精神的に無理のない程度に止める習慣があるからです。
このように、迎合系ストレスを溜めやすい資質の人にとって、パブリックストレスは、迎合系ストレスとは別の、迎合系ストレスよりも小さなストレスとして認識されるので、上述した単独での発散行為によって十分に解消することができます。
むしろ、迎合系ストレスを溜めやすい資質の人は、プライベートの迎合系ストレスを解消する場所が、職場や家庭等のパブリックになっていることが多いものです。
即ち、プライベートの人間関係で抑えている個性を職場や家庭等のパブリックで爆発的に発揮することで、プライベートで溜まった迎合系ストレスを解消するのです。
こうした職場や家庭等のパブリックでの爆発的な個性の発揮は、重い迎合系ストレスを溜め込んでいる場合には、「他人の意見を激しく否定する」、「声を荒げた近視眼的or被害者的な自己主張」という傍若無人な形で表れてしまうことがあります。
迎合系ストレスの解消の容易性
迎合系ストレスは、理論的には、孤独を恐れずに嫌いな人との関わりを断つことによって、解消に向かうことになります。
しかし、このような決断は、「孤独を恐れるな」という他人事的な精神論だけでは、できるはずがありません。
このような決断のためには、もう孤独系ストレスに悩まされないこと、具体的には、「自分の個性を受け入れ続けてくれる特別な相手」の存在が、生涯切れ目なく、保証されることが必要となります。
このような保証は絶対的には不可能であり、この保証状態に近づけるためには、「特別な相手を、将来における絶交するリスクを考慮して、複数人確保すること」が必要となります。
このためには、「数を打てば当たる」の精神で、多数の新しい人との出会いを根気よく重ねていけば、比較的簡単に実現することができるように思えるのですが・・・
実際には、以下の2つの理由により、なかなか特別な相手を確保することができないケースがあります。
●既述したように、迎合系ストレスを溜めやすい資質の人の中には、「相手を理解する<自分を理解してもらう」という身勝手な考えになりやすい人もいます。このような人の場合には、新しく出会った相手から、「この人は、自分に都合良く、私を利用しているだけ」と見抜かれてフェードアウトされることが頻繁に起きてしまいます。
●また、相手を理解する気が満々であっても、その相手が既述した迎合特性のうちの1つでも垣間見た際には、相手から、「このまま付き合っていっても、1人よりもマシ程度の表面的な関係に止まり、心の理解の深まりや信頼感までは得られない」とジャッジされ、“疎遠な知人”に格下げされてしまいやすくなります。
よって、これら2つの理由に留意しながら、特別な相手になれそうな人をなるべくたくさん見つけて関係を継続しておき、特別な相手に昇格するタイミングの到来を待つのが、賢明な策であると思います。
人生の中で迎合系ストレスを抱きやすい時期
迎合系ストレスは、既述した孤独系ストレスの説明に記載したように、「プライベートにおいて“好き嫌い”という純粋な感情の露出によってネガティブな経験を重ねたことをきっかけに、生まれながらに持っている孤独系ストレスを回避しようとした人」にのみ生じる、後発的で派生的なストレスです。
<ネガティブな経験によって孤独系ストレスを回避しようとする一例>
「好き嫌いの感情を露出して他人と付き合ったら、皆から嫌われて、理解者不在の1人ぼっちの状態になってしまった。1人ぼっちは嫌だから、今後は絶対に1人ぼっちにならないようにしたい。」
こうした孤独系ストレスの回避のために、プライベートの人間関係にて“好き嫌い”という感情の露出を抑制するための好悪露出抑制フィルタを自ら形成し、相手に嫌われないように自我を出さない無難な対応をします。
このような対応の継続により、迎合系ストレスが溜まっていくことになります。
以上のことより、迎合系ストレスを抱くためには、次の2つの条件が必要となることがわかります。
【条件1】プライベートにおいて“好き嫌い”という純粋な感情の露出によって人間関係に恵まれた経験が、過去に一度も無い、又は、過去にはあるものの、近年は同様の経験から遠ざかっている。
【条件2】自分の個性(好き嫌いの感情を含む)を受け入れてくれる人がいない。
これら2つの条件が揃う時期は、人によって様々ですが・・・
引き金となる条件2が揃い易い時期は、何らかのプライベートの人間関係環境に変化が生じた時(例えば、入学、転校、卒業、就職、転職、退職、入会、退会、転居、結婚、出産、離婚、死別)です。
よって、一般的には、このような時期に、迎合系ストレスは生じやすいと言えます。
このような迎合系ストレスが生じている状態が継続する期間は、一時的である人もいれば、生涯を終える寸前まで続く人もいます。
ここでは、よくある変遷のパターン例を以下に列挙して紹介するに止めておきたいと思います。
パターン1:気づき有り
「過去のプライベートの人間関係におけるネガティブな経験が、自分が好き嫌いの感情を露出したことによって生じたのではなく、相手の好き嫌いの感情を露出させたり汲み取ったりしなかったことによって生じた(=ギブ&テイクの精神に欠けていた)」ということに気づいた場合
↓
以降は、「自分のことを特別に思ってくれる特別な相手」に恵まれるため、上述した迎合系ストレスを溜めやすい資質が消滅して、孤独系ストレスを抱える元の資質に戻る。
パターン2:気づき無し
上記パターン1のような気づきが無く、相手に嫌われないように、相手に好き嫌いの素直な感情を露出しない無難な対応を続けている場合
↓
迎合系ストレスが生じている状態が継続する。
パターン3:迎合系ストレスのMAX化
上記パターン2の状態が継続した結果、相手に嫌われないように対応しても自分の個性を受け入れてくれる相手に恵まれないことに嫌気がさした(=迎合系ストレスの重さが限界に達した)場合
↓
以後、プライベートの人間関係において生じるストレスの種類は、後述する自己承認系に変わる。
次回の記事では、自己承認系のプライベートストレスの特徴について、詳細に説明していきます。
→次の記事:「ストレス-7.プライベートストレス(自己承認系)」
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