秘密主義(その1)その意味と性質-人間関係において、自分のことを知らせない、話さない
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はじめに
日頃、職場や家庭、プライベートの人間関係において、「もっと仲良くなりたい」と思っている相手とコミュニケーションを図っていく機会があります。
こうした機会において、
●相手が自身のことを私にあまり話してくれないから、お互いの関係が深まっていかない。
●「相手が私のことを根掘り葉掘り聞いてくるから、答えるのに戸惑ってしまう。
●会うたびに、好みや価値観について、相手との相違点が増えていく。
のように「思い通りに仲が進展していかないなぁ…」というイライラ感を抱いてしまうことがありますよね。こんな時、ついつい「やはり、相手は、私とは仲良くなりたいとは思ってないのかな?」とネガティブな想像をしてしまい、その後、相手を誘うことに躊躇してしまいがちです。
この場合、相手が「出会ってからまもない知人」や「職場の同僚」のようなプライベートで疎遠な関係の人である場合には、「無理してまで仲良くする必要ないか…」と思って、放置すればよいのですが・・・
相手が、親友や友達、友人、恋人、彼氏、夫、旦那のような「貴女のプライベートにおいて大切な人」である場合には、「もっと仲良くなっていくために、今後、どうしていったらいいのだろう?」のように、大切な人との人間関係について真剣に悩んでしまいますよね。
先に例示した戸惑いは、いずれも、「秘密主義の人がいる人間関係」において起こりがちなものです。この時の「相手は私とは仲良くなりたいとは思ってないのかな?」というネガティブな想像は、もちろん正解の場合もありますが、得てして、秘密主義の性質の不知に基づく誤解である場合も多々見受けられます。
せっかく相手が仲良くしたいと思っているのに、相手のことを誤解して心の距離が遠ざかってしまうのは、もったいないことですよね。
そこで、貴女の大切な人とのコミュニケーションに役立つように、秘密主義の人の本質的特徴やコミュニケーション心理について、開示主義の人との違いに触れつつ、3回に分けて解説していきたいと思います。
1.「秘密主義」の意味内容(開示主義との対比)
「秘密主義」とは、大切な相手とのコミュニケーションにおいても、「“自分のこと”を相手に知らせない、話さない」ということを原則とするポリシーをいいます。よって、「“自分のこと”を相手に知らせる、話す」ということは、例外的な位置づけとなります。
このポリシーは、「“自分のこと”を他人に知らせない、話さないことで、自分に対する他人の誤解や避難を防げる」という考え方を基調としています。
一方、「開示主義」とは、大切な相手とのコミュニケーションにおいては、「“自分のこと”を相手に知らせる、話す」ということを原則とするポリシーをいいます。よって、「“自分のこと”を相手に知らせない、話さない」ということは、例外的な位置づけとなります。
このポリシーは、「“自分のこと”を他人に話して知ってもらうことで、他人の自分に対する理解が深まる」という考え方を基調としています。
このように、秘密主義の人(以下、「秘密主義者」といいます)と開示主義の人(以下、「開示主義者」といいます)とでは、対人コミュニケーションにおける原則と例外が逆転しています。
2.コミュニケーションにおいて想定している相手
(1)開示主義者の場合
上述した開示主義のポリシーは、「人間関係におけるコミュニケーションの相手も、自身と同じ開示主義である」ということを前提としているものと考えられます。
即ち、一方的に“自分のこと”を相手に話して知ってもらうだけでは、相手に自己アピールや営業トークとして評価されるに過ぎず、お互いの理解は深まりません。これをお互いの理解に発展させるためには、自分と相手の双方が次の(a)~(c)の3つの意思を持っていることが必要になります。
(a)自発的に“自分のこと”を話して相手に伝えよう。
(b)相手から“自分のこと”を質問された時には積極的に答えよう。
(c)“相手のこと”がわからない時には相手に積極的に質問して相手から答えを得よう。
これにより、「お互いのことを、自発的に伝え合い、かつ、気軽に質問してリベラルに意見が言い合える関係」が実現します。
こうした関係において、(a)~(c)の意思に基づくアクションをそれぞれが行っていくことを通じて、お互いの心の中には、個性の内容が、その評価(肯定、否定、どちらでもない、のいずれか)と共に、知得されて蓄積されていきます。
開示主義者は、こうして知得した個性の蓄積によって、お互いに理解し合える人間関係を構築していくことになります。この知得されて蓄積された個性(注:肯定、否定、どちらでもないの全ての評価を含む)の総量が、お互いに理解し合えた度合いとなり、この度合いに応じて、関係の序列(恋人、親友→友人→知人→他人同然)が定まります。
以上より、「開示主義者は、人間関係におけるコミュニケーションの相手として、一次的には、自身と同じ開示主義者を想定している」と言うことができます。
(2)秘密主義者の場合
一方、秘密主義のポリシーは、「人間関係におけるコミュニケーションの相手は、“自分のこと”を知らせない、話さないことを許してくれる人である」ということを前提としています。
このため、秘密主義者の場合、どのような人間関係を構築していくかは、コミュニケーションの相手によって変動します。
まず、相手も秘密主義者である場合には、お互いに「“自分のこと”は知らせたくない、話したくないし、“相手のこと”も知りたくない」ということが前提となるため、態度や行動等の言葉以外の要素でお互いの理解を補完し合えない限り、表面的かつ希薄な人間関係(知人以下)が構築されることになります。
次に、相手が開示主義者である場合には、その相手は、秘密主義者とコミュニケーションしていくためには、上述の(1)における(c)の意思(=“相手のこと”がわからない時には相手に積極的に質問して相手から答えを得よう)を持たないようにしなければなりません。
よって、(c)の意思を捨てられない相手(開示主義者)との間では、表面的かつ希薄な人間関係すら構築できず、“他人同然”という関係に止まることになります。
一方、(c)の意思を捨てた相手(開示主義者)との間では、態度や行動等の言葉以外の要素でお互いの理解を補完し合えた場合には、開示主義者同士と同様の「お互いに理解し合える人間関係(=恋人、親友、友人)」を構築することが可能になります。
しかし、現実には、言葉に依存しない意思疎通は非常に高度なものであるため、「お互いに理解し合える人間関係」に至るまでの間に、必ずと言っていいほど、「お互いに誤解し合う人間関係(=誤解し合う恋人、親友、友人)」が構築されてしまいます。この段階では、「相手が何を考えているのかがわからない」という人間関係についての真剣な悩みが生じやすくなります。
以上より、「秘密主義者は、人間関係におけるコミュニケーションの相手としては、“自分のこと”を知らせない、話さないことを許してくれる人(秘密主義者、開示主義者のいずれかは問わない)を想定している」と言うことができます。
但し、秘密主義者との間でお互いに理解し合える人間関係を構築していくためには、その相手が秘密主義者、開示主義者のいずれであっても、「態度や行動等の言葉以外の要素でお互いの理解を補完し合っていくこと」が必須のプロセスになるのです。
3.秘密主義、開示主義のレベル
「自分が秘密主義者、開示主義者のどちらなのか?」ということについては、消去法を用いれば容易にわかるのでは…と思います。それでもわからない方は、「大切な相手であれば、自分の心に土足で入ってきて欲しい」と思う人は開示主義者、「大切な相手であっても、自分の心に土足で入ってきて欲しくない」と思う人は秘密主義者、のように概ね考えてよいと思います。
ただ、図1 に示すように、秘密主義の度合いは、個々の秘密主義者によってかなり開きがあり、これは開示主義の度合いについても同様です。図1では、この度合いを5段階のレベルで表し、数値が大きくなるほどレベルが高い(=秘密主義や開示主義を徹底している)ものとしています。
この図1を見てみると、「もし、開示主義レベル5の開示主義者と秘密主義レベル5の秘密主義者が向き合って話をしたら、二人の間では自己情報開示ポリシーの原則と例外が真逆なので、誤解を通り越し、お互いの対応に腹が立ってバトル状態になってしまうかも…」ということが容易に想像できるかと思います。
でも、このような二人であっても、後述する秘密主義レベルの段階的な相違に関する説明をお読み頂ければ、きっと、そのようなバトルはお互いに無理なく回避できるようになることでしょう。
なお、図1には、秘密主義者の本質である「非難回避」と、その実現のために秘密主義者が保持している感度良好なセンサーとして、秘密主義レベル2の人が備える「不信」、秘密主義レベル3の人が備える「干渉拒絶」、秘密主義レベル4の人が備える「責任転嫁」、秘密主義レベル5の人が備える「無傷保証」という4種類を記載しています。
こうした本質と各センサーの役割は、秘密主義者の心の基本構造を理解するために最も重要なものになりますので、後ほど詳述します。
4.誤解してはいけないこと-秘密主義者も、お互いにわかり合うことを望んでいる
実際のコミュニケーションの場面では、「自分や相手が、秘密主義or開示主義のどちらなのか?」ということなんて、いちいち意識しないと思います。
仮に意識してコミュニケーションの場に臨んだとして、この時、「メンバーの中に1人でも秘密主義者が含まれている」ということをその他のメンバーが察知したら、…その他のメンバーは、どのような対応をしようと考えるでしょうか?
その他のメンバーの各々は、「秘密主義者に対しては、秘密主義者自身のことを聞いてはいけない。秘密主義者が自身のことを話したとしても、それに突っ込んではいけない。」とコミュニケーションの場において意識して気を遣ってしまいます。このように意識してしまうと、秘密主義者自身のこととは無関係な話題(ex.その場にいない人の話や新聞ネタ、一方的な自慢話)に終始した不毛な会合にもなりかねません。
このような不毛な会合は、おそらく、女性の方であれば、何度か経験されているのではないでしょうか。この時のメンバーの中には、このような会合を「くだらない話、無意味な時間」と感じる方もいるでしょう。その一方で、もしかしたら、「秘密主義者の存在に配慮して、やむを得ずそういう話をしている」というメンバー全員の調和のために自演している方もいたかもしれませんね。
しかし、このように秘密主義者に配慮して秘密主義者に無関係な話題を秘密主義者と長年会話し続けても、秘密主義者との心の距離は一向に縮まりません。
そして、当の秘密主義者は、こうした腫れ物に触られるような扱いを望んでいる訳ではなく、気の合う相手との間では、お互いのことをわかり合い、心の距離を縮めていくことを望んでいます。
こうした心の距離の短縮を実現するためには、・・・「秘密主義者、開示主義者のそれぞれが、秘密主義者と開示主義者の心の構造の相違を知っておくこと」・・・これだけで十分だと思います。
→次の記事:「秘密主義(その2)秘密主義者の本質、特徴、性格-非難回避と自己防衛本能による不信、干渉拒絶、責任転嫁、無傷保証|人間関係における人の行動と内心のメカニズム」
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タグ:秘密主義