秘密主義(その2)秘密主義者の本質、特徴、性格-非難回避と自己防衛本能による不信、干渉拒絶、責任転嫁、無傷保証
ここは、Fantasy学部 教室
4.誤解してはいけないこと-秘密主義者も、お互いにわかり合うことを望んでいる
5.秘密主義者の心の基本構造(開示主義者との対比)
さて、それでは、秘密主義者の本質、特徴、性格を知る上で最も重要な「秘密主義者の心の基本構造」について、開示主義者と対比しつつ説明してきたいと思います。
その前に、「なぜ、私たちが、秘密主義者の特性を研究し、記事にしようと思ったのか?」という動機について、少しだけ補足しておきたいと思います。
私たちは、当校のテーマである”思い通りに愛される”ということについては、「秘密主義者であるか開示主義者であるかに拘わらず、実現可能である」ということを、現代社会を含めて、長年に亘る経験的事実として認識しています。
ところが、現実の書籍やネット上の情報では、「秘密主義は、対人関係が貧しくなる要因であり、個人の成長の妨げとなるので、治すべきである」のような、秘密主義があたかも病気であるような記載が散見されます。例えば、「秘密主義者は、プライドが高い、対人恐怖症、他人に心を閉ざし自分を隠す」・・・
このような記載は、所定の学術的な研究の結果なのであれば、その通りなのかもしれません。
でも、もし秘密主義者が本当にこのような人なのであれば、開示主義者だけでなく、秘密主義者も、仲良くなりたいとは思わず、永久に1人ぼっちになってしまうはずです。
しかし、現実の社会の実態に照らせば、そのようなことはなく、熱い友情や愛情に恵まれている秘密主義者の方もたくさんいらっしゃいます。
それに、秘密主義は、(もちろん、大人になってからのトラウマ的な経験をきっかけとして後天的に備わったものもありますが、)そのほとんどが、持って生まれた個性や幼少期の家庭環境に起因して備わったクセのようなものです。よって、治せと言われても、そんなに簡単に治せるものではありません。
以上のことから、私たちは、「少なくとも、”思い通りに愛される”というためには、秘密主義を治す必要など全くなく、開示主義者と秘密主義者の双方が「秘密主義って、こういう特質なんだね」ということを認識しさえすれば十分である」と考えています。
それでは、本論である「秘密主義者の心の基本構造」に入り、秘密主義者の本質、特徴、性格について明らかにしていきます。先に、本論のまとめを、以下の図2に示しましたので、適宜、ご参照頂ければと思います。
(1)秘密主義の本質は「非難回避」
既述したように、秘密主義のポリシーは、「大切な相手とのコミュニケーションにおいても、“自分のこと”を相手に知らせない、話さないことを原則とする」というものです。
このポリシーの意味を字句通りに解釈した開示主義者の方は、「“自分のこと”を積極的に相手に知らせなかったら、誰とも深い仲になれないじゃん。心で繋がる人間関係に興味が無い人たちなのかな?」のように指摘するかもしれません。
決してそうではなく、秘密主義者も、開示主義者と同様に、心で繋がる人間関係を必要としています。それに、“自分のこと”を積極的に相手に話して知らせたとしても深い仲になれない場面は多々あることを考えると、“自分のこと”を積極的に相手に話して知らせることは、深い仲に進展するための不可欠な手段とまでは言えないと思います。
「“自分のこと”を相手に知らせない、話さない」という行為(不作為)に至る理由、即ち、「大切な相手とのコミュニケーションなのにも拘わらず、なぜ、“自分のこと”を相手に知らせない、話さないのか?」
この主たる理由に、秘密主義の本質が内在しているのです。
この主たる理由、即ち秘密主義の本質は、「非難回避」です。これは、大切な相手とのコミュニケーションのみならず、あらゆる他人との人間関係づくりの過程において、秘密主義者の核となるポリシーであり、図1に示した全てのレベルの秘密主義者が共通に備えています。
つまり、秘密主義者が“自分のこと”を相手に知らせない、話さない一番の理由は、知らせた内容(=“自分のこと”)を聞いた“誰か”によって、その内容が誤解(=秘密主義者の意に反した解釈)され、その“誰か”からの苦言等によって自分が責められたり非難されたりすることを避けたいからです。そして、“誰か”からの苦言等によって自分が責められたり非難されたりした場合には、“誰か”に対して不安を抱き、“誰か”との心の距離を自ら遠ざけてしまいます。
よって、“自分のこと”の内容が 「“誰か”に誤解されようの無い事実(例えば、自分の出身校やその時に所属していたクラブ活動)」なのであれば、秘密主義者は、“自分のこと”を相手に積極的に知らせます。
他方、“自分のこと”の内容が「“誰か”に誤解されやすい事実」である場合には、秘密主義者は相手に知らせることを躊躇してしまいます。例えば、秘密主義者が、躊躇した上で、「私、実は、既婚者のKさんに憧れているの」と相手に告げたとします。その直後に相手から「不倫はダメだよ」と非難するような返事が返ってきたら、・・・秘密主義者は、「不倫したいなんて言ってないのに…しかもなぜダメ出しまでされなきゃいけないの。もう、この人には、自分のことを話すのを止めよう。」と思ってしまいます。
このような場面について、開示主義者であれば、『相手と話すことを止めてしまう前に、相手に「そんなこと言ってないよ」とか「そういう意味じゃない」と告げて、相手が非難した“自分のこと”の内容の正確性を議論して相手の誤解を解けばいいのに…そうすれば、非難されなくなるので』と感じることでしょう。
しかし、秘密主義者の場合には、このような議論によって相手に対する誤解を解いても、不快な気持ちはおさまりません。なぜなら、秘密主義者は、「“自分のこと”を責めたり非難したりすることができる資格を持っているのは原則として自分だけである」と考えているため、たとえ大切な相手からであっても、“自分のこと”を非難されること自体に違和感を持っているからです。
ここまでの説明で、より正確に理解して頂きたいことがあります。
それは、秘密主義者にとっての非難回避は、「“自分のこと”を相手に知らせないことで、相手の自分に対する誤解や非難を防ぐことができる」、即ち、相手から関係を終了されたくない(=相手との関係を継続したい)という前向きな意図でなされるものである、ということです。逆に言えば、秘密主義者は、「相手が誤解や非難をしない人であることをわかってからは、開示主義者と同様に、その相手に“自分のこと”を積極的に知らせたい」と思うのです。
よって、秘密主義者にとっての非難回避は、「“自分のこと”を話すと、話した相手やその相手から伝え聞いた第三者から責められる可能性があるから、しゃべりたくない。」のような自分の心を積極的に閉ざそうとする後向きな意図でなされるものではありません。むしろ、実際の社会では、開示主義者よりも秘密主義者の方が、ビジネスとプライベートを区別することなく、どのような人とも分け隔てなく付き合える方や、人付き合いの良い社交的な方が多いという印象があります。
ところで、この「非難回避」は、その反射的効果として、次の効果を備えます。
<反射的効果>
秘密主義者は、“自分のこと”を直接相手に知らせた場合に、その相手によってその内容(=“自分のこと”)が秘密主義者の意図通りに理解され、かつ、その相手からのその内容に対する共感や褒め等を受けて「自分のことが肯定されている」と感じたときには、その相手に安心感を抱き、その相手との心の距離を自ら近づける。
相手から共感されたり褒められたりして自分が肯定されることは、秘密主義者にとっては格別に嬉しいことです。それ故に、秘密主義者は、大切な相手とのコミュニケーションのみならず、あらゆる他人との人間関係づくりの過程において、他人に対し、この反射的効果を求めてしまいやすくなる危うさがあります。この反射的効果を当たり前のように他人に対して求めてしまうようになってしまうようになると、後述する“他人全般に対するフィルタリング”が定常化して、無意識のうちに自己承認欲求や自己肯定感が高まり、自己愛性パーソナリティ障害にも陥りやすくなる危険もあるのです。
(2)「非難回避」は、「不信」と結合しやすい
既述した通り、秘密主義の本質である非難回避は、「知らせた内容(=“自分のこと”)を聞いた“誰か”によって、その内容が誤解され、その“誰か”からの苦言等によって自分が責められたり非難されたりすることを避けたい」というものでした。
この“誰か”には、秘密主義者から直接に内容(=“自分のこと”)を知らされた相手のみならず、この相手からその内容を伝え聞いた第三者も含まれます。こうした伝聞の過程では、秘密主義者が相手に伝えた内容(=“自分のこと”)が、その相手によって誤解される可能性のみならず、その相手から第三者に伝わる際に誇張や減衰が生じ、それが伝わった第三者によって更に誤解される可能性が生じます。
このため、秘密主義者は、自分が相手に伝えた内容(=“自分のこと”)について第三者が抱く非難の程度を全く予測することができません。誤解や誇張、減衰の程度が甚だしい場合には、伝え聞いた第三者から、あらぬ事実に基づいて責められたり非難されたりしてしまいます。
例えば、秘密主義者が相手に「絶対に内緒だよ」と念押しした上で、「私、実は、既婚者のKさんに憧れているの」と言っただけなのに、その内容が相手の知人に伝わっていて、しかも、その知人から「不倫しているなんて、最低だね」と言われてしまったら、・・・秘密主義者は、「私は、不倫したいとも、不倫しているとも言ってないのに。しかも、内緒の約束を破られて知人から非難された。この相手も知人も全く信用できないから、もう関わるのは止めよう。」と思ってしまいます。
このような事態をも避けたいと考える秘密主義者は、十全な非難回避のために、自己防衛本能(警戒心、性悪説)を働かせ、「“自分のこと”を相手に知らせる際には、次のことについては、信用してはいけない。」と考えます。
●“自分のこと”を知らせた相手が、その内容(=“自分のこと”)を第三者に伝えないこと
●相手が第三者に伝える内容は、自分の意図通りに解釈される内容であること
●第三者が、相手から伝えられた内容を、自分の意図通りに解釈すること
このように、非難回避の意識が自己防衛本能と結合して、「他人による伝達や解釈の行為に対する不信」という意識が形成され、秘密主義者には、大切な相手とのコミュニケーションのみならず、あらゆる他人との人間関係づくりの過程において、非難回避を実現するための対人センサーとして、不信センサーが備わります。この不信センサーは、全ての秘密主義者が備えている対人センサーではなく、自己防衛本能の強い秘密主義者(図1に示したレベル2以上の秘密主義者)のみが備えているものになります。
こうした不信センサーの働きにより、秘密主義者は、「“自分のこと”を相手に伝えた後に、“誰か”からの苦言等によって自分が責められたり非難されたりすることを避けるためには、自分が相手に伝える内容(=“自分のこと”)を、相手から第三者に伝わっても構わない内容や第三者に伝わっても誤解や非難が生じにくい内容等の差し障りのない薄い内容に変えて、伝えなければならない。」と考え、“自分のこと”については、薄い内容で相手に伝えるようにするのです。
秘密主義者との人間関係の発展途上段階では、「私が自分のことを濃い内容で彼女(=秘密主義者)に話したのに、彼女は自分のことを薄い内容でしか私に話してくれない。」というケースがよくあります。このようなケースが起きる理由としては、・・・「彼女が私に好意を抱いていない」、「彼女が人間関係におけるギブ&テイクの大切さをわかっていない」等のシリアスなものである場合もありますが、・・・秘密主義者の場合には、「彼女の不信センサーが働いている時だから」という単純な理由(つまり、時間が解決する問題)であることも意外と多いのです。
さて、ここまでの説明で、より正確に理解して頂きたいことがあります。それは、
不信センサーが検知する「不信」の対象は、「他人による行為(=伝達や解釈)」に過ぎず、「他人そのもの」ではない。つまり、秘密主義者は、人間不信に陥っているわけではない
ということです。
不信センサーが作動中の秘密主義者は、“自分のこと”について、相手から深い内容を聞かれても、回答をはぐらかしたり、浅い内容でしか答えなかったりするので、相手は、秘密主義者に対し、ついつい「他人のことを信用しないヤツ」という重いレッテルを張ってしまいがちです。
そうではなく、秘密主義者は、相手に対し、「私の言うことを誤解せず、私のことを責めたりしないし、他言もしない。」という評価をした後においては、自分から率先して“自分のこと”を深く話すようになります。
よって、相手(秘密主義者)と仲良くなりたいのであれば、相手に重いレッテルを張ってしまう前に、まずは、「今の自分は相手からどう評価されているのか?(信用されているのか?)」ということを考えてみるのがよいでしょう
(3)非難回避しきれない相手に対しては「干渉拒絶」
秘密主義者は、上述した不信センサーを用いて、あらゆる他人との人間関係づくりの過程において、なるべく“自分のこと”を他人に知らせないようにしつつ、その他人の中から、自分にとって大切な相手を選びます。
しかし、このように大切な相手を選んだ後において、上述した不信センサーを用いるだけでは、自分が責められたり非難されたりすることを避けられないことがあります。例えば、大切な相手から、この相手に伝えていない“自分のこと”に関し、「お前はこういう性格だ。だからこういう行動をするんだ。だからダメなんだ。」みたいなことを言われたような場面です。このような相手は、一人とは限らず、家にも職場にもサークルにも…多数いるような場合もあります。
このような場面において、開示主義者であれば、「相手から非難されたことのうち、的を得ていると思う部分については自認し、的を得ていないと思う部分については相手に反論する」、「逆に、相手の非難すべきところを指摘して、相手にやり返す」等のように、相手とのコミュニケーションをした上で、和解する又は関わりを拒否する等の結論を出すものです。
しかし、秘密主義者の場合には、このような場面では、相手とコミュニケーションをする気持ちすら失せてしまいがちです。なぜなら、既述の項目5.(1)に記載したように、秘密主義者は、「“自分のこと”を責めたり非難したりすることができる資格を持っているのは原則として自分だけである」と考えているため、たとえ自分が相手に伝えた“自分のこと”であっても、非難されることに違和感を持っています。よって、相手に伝えてもいない“自分のこと”で相手から非難された場合には、違和感を通り越して、非難してきた相手のことが越権行為者に見えてしまい、「このような越権行為者とは話し合う価値すら無い」と思ってしまうからです。
このように自分が伝えていない“自分のこと”で相手から責められて非難されてしまうと、秘密主義者としては、不信の対象が「他人による行為(=伝達や解釈)」に止まらず、「他人そのもの」になってしまうので、不信センサーが非難回避の役に立ちません。
このような事態をも避けたいと考える秘密主義者は、十全な非難回避のために、自己防衛本能(警戒心、性悪説)を更に働かせ、「相手からの干渉自体を拒否してしまえば、その相手から直接に非難を受けることがなくなる」と考えます。
このように、非難回避の意識が自己防衛本能と結合して、「大切な相手ではあるけれども、相手からの越権行為的な非難がこれ以上なされることから免れるために、相手からの干渉を拒絶しよう」という意識が形成され、この結果、秘密主義者には、不信センサーとは別に、大切な相手向けの対人センサーとしての干渉拒絶センサーが備わります。この干渉拒絶センサーは、全ての秘密主義者が備えている対人センサーではなく、上例のような「自分のことをわかっていない他人からの非難」を経験した秘密主義者(図1に示したレベル3以上の秘密主義者)のみが備えているものになります。
干渉拒絶センサーを備えた秘密主義者は、大切な相手が自分(=秘密主義者)のことをわかっていないのに自分のことを非難した場合に、干渉拒絶センサーを作動させます。以後、秘密主義者は、この相手に対し、無視やシカトによって干渉を拒否し、この相手に対して“無関係”(=関わりを受け付けない)という感を抱き、その相手との心の距離を自ら遠ざけてしまうのです。但し、その相手は「秘密主義者にとって大切な相手」ですので、相手との関係を遮断することまではしません。
干渉拒絶センサーが作動した場合の秘密主義者の行動例としては、次のようなものがあります。
●友人から自己変化を促す内容の意見や助言がなされた場合に、聞いているふりをするだけで、話を聞かない。心の中に受け入れて理解しようとせず、雑な応答をする。その意見や助言の内容がシリアスになると、否定して受け入れない。
●友人から自己変化を促す内容の意見や助言がなされることを極度に恐れる人の場合には、友人からそのような意見や助言がなされないように、話題をそらしたりして会話をコントロールする。
■干渉拒絶とフィルタリングとの違い
ここまでの説明の通り、秘密主義者が他人に対して干渉拒絶を行う時は、大切な相手が自分(=秘密主義者)のことをわかっていないのに自分のことを非難したことにより、「この相手からのこれ以上の非難を避けたい」と思った時、いわば秘密主義者にとっての非常事態時です。この時に、自分を守るための最後の手段として干渉拒絶を実行します。
つまり、干渉拒絶を行う対象は、“大切な相手”に限られ、干渉拒絶を行う時は、この大切な相手が“自分のことを非難した時”に限られるのです。
従って、「“自分のことを非難した大切な相手”以外の他人を、“無関係”(=関わりを受け付けない)と評価して、その後の他人との人間関係を遮断する」という行為は、いわゆる“他人全般に対するフィルタリング”であり、秘密主義の表れとしての干渉拒絶(=秘密主義者に特有の行為)ではありません。
この“他人全般に対するフィルタリング”は、秘密主義者か開示主義者であるかを問わず、自分が関わっていく他人を選別するために、各自の基準で行われるものです。
■秘密主義者に特有のフィルタリング基準はあるのか?
秘密主義者によるフィルタリングに関しては、「秘密主義者は、次の選別基準Nを重視するため、他人とのコミュニケーションにおいて次の行動NAをし、その結果、コミュニケーションをしていたメンバーから次の評価NJのような評価がなされ得る」と言われることがあります。
【選別基準N】
「自分に共感してくれたり、自分を褒めてくれ、肯定してくれそうな人」とのみ関わり、「自分のことを否定しそうな人」とは関わらない。
【行動NA】
●的確な意見や助言をする能力の有る人には、できるだけ話を振らないようにし、その人からの話を断ち切るようにする(話を聞かないためのインサイドワーク)。
●核心をついた質問をする人に対しては、その人への質問攻めによってその人自身のことを話させ、自分のことを話す必要性や時間を減らすようにする。
●自分に共感してくれたり、自分を褒めてくれ、肯定してくれる人にすがり、自分が思っていることをこの人に代弁させる。
【評価NJ】
●他人の価値観を受け入れられず、他人に対して心を閉ざしている人
●受容力が乏しく、否定力が高い人
●他人に泥をかぶせて自分は泥をかぶらない卑怯な人
このような内容でのフィルタリングは、既述の項目5.(1)に「非難回避の反射的効果」として記載したように、大切な人とのみならず、あらゆる他人との人間関係づくりの過程において他人から肯定されることを求めてしまう秘密主義者の場合には、確かになされるかもしれません。
しかし、あらゆる他人から「共感されたい、褒めてほしい、肯定されたい」ということを求める動機は、「他人から責められたくない、非難されたくない」というものの他にも、「自分の個性が他人から認められない」、「周りの人が自分の存在を必要としていない」、「とにかく寂しいから、誰かと接したい」、…この他にもたくさんあります。
よって、上述の選別基準Nや行動NAは、秘密主義者に固有のものではなく、広く「他人から、共感されたい、褒められたい、肯定されたい」という動機を持つ人全般に当て嵌まるものであると考えます。
これが具体的にどのような人であるかについては、この記事のテーマである秘密主義からズレてしまいますので、詳細については省略しますが、・・・「成人までの間に、他人との心の触れ合い(喧嘩を含む)の機会が少なく、他人から腫れ物に触るような扱いを受けてきた人」の場合には、上述の選別基準Nや行動NAをとりやすい傾向があるものと考えています。
(4)非難した相手を責める「責任転嫁」、「無傷保証」
上述した大切な相手に対する干渉拒絶は、秘密主義者としては、頻繁には使いづらいものです。なぜなら、秘密主義者は、「大切な相手が“自分のこと”を責めたり非難したりするのは、本当に自分のためを思ってくれているから」ということを頭ではわかっており、相手からの干渉を拒絶してばかりいると、相手が自分との心の距離を遠ざけてしまうからです。
●大切な相手であっても、“自分のこと”で責められたり、非難されたりすることは嫌だ。
●でも、大切な相手だから、「責めないで」とも言えないし、無視もできない。
●相手からの非難の正当性に関する議論はしたくない。正しかろうが間違っていようが、非難されること自体が嫌だから。
このような秘密主義者の心理状態において、大切な相手から非難されることが度重なってくると、非難された事実や内容が、自分の中に、心で受け入れられないままの状態で溜まっていってしまいます。
このため、秘密主義者には、「相手から非難された事実や内容を、自分の中に溜めないようにしなければ…」という自己防衛本能が働きます。
この結果、秘密主義者には、次の「責任転嫁」と「無傷保証」という、非難回避を実現するために「大切な相手からの非難に対して穏やかな抗弁をしよう」という意識が形成され、不信センサーや干渉拒絶センサーとは別に、大切な相手向けの対人センサーとして、責任転嫁センサーと無傷保証センサーが備わります。この2つのセンサーは、いずれも、大切な相手から受けた非難を処理する際に発動します。
(a)責任転嫁
●「私があなたから非難されるのは、あなたの責任である」という考え方
大切な相手からダメ出しされた自分の行動について、秘密主義者自身が「その行動を改めることは、客観的に見れば的を得ているかもしれないが、簡単には無理or改めたくない」と思っている場合に、その行動をした動機や原因が相手にある旨の反論をして、その行動をした責任の全てを他人に負わせる。
ex.意見や助言をきかない、話を聞かない→それは、あなたの意見や助言の内容が私にとって難し過ぎるから
ex.セックスさせてくれない→それは、あなたがチャラいから
●責任転嫁センサーを備え得る秘密主義者は、「大切な相手から非難された経験が豊富な秘密主義者(図1に示したレベル4以上の秘密主義者)」のみとなります。
●責任転嫁センサーが発動されると、秘密主義者は、上記の考え方に基づき、非難した相手に対し、「あなたが非難した事柄( =“私のこと”)は、私のせいで起きていることではなく、あなたのせいで起きたことである」のように、「相手から非難を受けたこと」を相手の責任にします(つまり、自分に非は無く、責められないことになります)。これにより、相手からの“非難”は“相手が原因で生じた非難”に変わります。よって、「“自分のこと”で相手から非難された」という事実は的外れなものであると自己評価され、相手からの非難によって抱いた不安が解消されます。
(b)無傷保証
●「あなたからの非難を受け入れた場合に、私が傷つかない」ということを相手に保証させる考え方
他人から促されて自分も「取り組みたい」と思っている事柄であっても、その事柄に取り組むことによって自分が損したり傷ついたりするリスクのある場合には、そのリスクを少しでも負うことは嫌(=傷つきたくない)なので、自分がその事柄に取り組むために、そのリスクが無いことを他人に保証させ、又は、そのリスクが起きた場合の責任の全てを他人に負わせる。
ex.意見や助言をきかない、話を聞かない→きいてもいいけど、傷つきたくないから、私が傷つかないことを保証してよね
ex.セックスさせてくれない→してもいいけど、傷つきたくないから、私が傷つかないことを保証してよね
●無傷保証センサーを備え得る秘密主義者は、「リスクヘッジの意識が高い秘密主義者(図1に示したレベル5以上の秘密主義者)」のみとなります。
●無傷保証センサーが発動されると、秘密主義者は、上記の考え方に基づき、「あなたが非難した事柄( =“私のこと”)を私が受け入れられないのは、受け入れた後に私が傷つかないことを、あなたが保証してくれないからである」のように、「相手からの非難を受け入れられないこと」を相手の責任にします(つまり、自分に非は無く、責められないことになる)。これにより、相手からの“非難”は“強い勧誘(=私が保証してあげるから、受け入れなさい)”に変わります。よって、「相手から非難された」という事実は無かったものとして評価され、相手からの非難によって抱いた不安が解消されます。
これらの2つのセンサーの発動後に、相手は、秘密主義者から押し付けられた責任を負担しようとしない場合があります。例えば、「非難されたことを、人のせいにせずに、ちゃんと認めたら?」、「非難を受け入れるかどうかは、あなた自身で判断すること。あなたが傷つきたくないからと言って、傷つかない保証を私がすることなんて、できないよ。」のように相手が返答してきた場合です。
この場合には、秘密主義者は、この相手に対する不安が増長し、相手との心の距離を大きく遠ざけてしまいます。なぜなら、秘密主義者の内心には、「“自分のこと”で相手から非難された」という事実が残り続けるのみならず、「この相手からは、今後も、責められたり、非難されたりする可能性が十分にある」という予感が生じるからです。
実際に、秘密主義者にとって大切な人は、「(秘密主義者から)自分のせいにされた時の受け入れ度量の高い人」が多いものです。このような人であるからこそ、秘密主義者とのバランスが成り立っているのです。
なお、責任転嫁センサーを濫発してしまうと、大切な相手から「自分の非を素直に認めようとしない人」、「とかく他人のせいにする、自己保身的な人」、「受容力が乏しく、否定力が高い人」のようなネガティブな印象を持たれてしまいます。
また、無傷保証センサーを濫発すると、大切な相手から「懐疑的で、器の小さい人」、「あざとい、ずるい、卑しい人」、「冒険力に乏しく、面白みのない人」、「依存心が強い人」のようなネガティブな印象を持たれてしまいます。
よって、秘密主義者にとっては、これら2つのセンサーについては、大切な相手から受けた非難の内容が重たい場合に限り、発動させるのがクレバーな用法であると考えます。
■「責任転嫁」や「無傷保証」は、相手の非難に対する対抗手段
ここまでの説明の通り、秘密主義者による責任転嫁(=非難されたのは相手の責任であることを主張)や無傷保証(=非難を受け入れた場合の無傷保証を相手に要求)の目的は、大切な相手からの非難に対抗して、相手から非難された事実や内容を、一方的に自分の中に溜めないようにするためです。
この責任転嫁と無傷保証は、秘密主義者だけでなく、開示主義者においても、相手から一方的に責められる等の窮地に立たされた場合には、相手からの非難に対抗すべく、なされ得るものですが、いずれの場合においても、責任転嫁や無傷保証の対象は、あくまで“大切な相手”に限られ、責任転嫁や無傷保証を実行する時は、この大切な相手が“自分のことを非難した時”に限られます。
従って、「“自分のことを非難していない相手”に対し、相手からなめられないように威嚇的に責める行為、自分に都合よく相手に責任を押し付ける行為、自分が傷つかないことの保証を要求したりする行為は、単なる“他人に対する卑下や侮辱”であり、上述した「相手からの非難に対抗するための責任転嫁や無傷保証」ではありません。
コミュニケーションにおいてありがちな “他人に対する卑下や侮辱”の例をいくつか列挙してみました。例示した行為は、いずれも秘密主義者に特有の行為ではありません。これらの行為がなされる原因には、「相手から嫌われたいという積極的意思」等の意図的なものと、「他人の気持ちを察する能力の欠如」等の無意識的なものがあります。また、無意識的な原因で例示した行為をする人は、「自分が同じことをされると、キレる」という特徴を備えがちです。
“他人に対する卑下や侮辱”の例
●相手が話してくれた事柄について、「意味が分からない」とだけ発言する行為
→「相手の話の内容を理解する」という自分の責任を、「話の内容を自分に理解させる」という相手の責任に転換して、相手に押し付けている。
●相手が話した内容中におけるミスの存在を勝ち誇ったように相手に追及する行為
→「正確に伝達する」という相手の責任について、その重みを勝手に重く評価し、不必要に強調している。
●自分の意見を通したいときに、「Aさんがそう言ってるから」のように他人の意見を盾にして、それが自分の意見であるとは言わない
→批判された時に、他人の責任になすりつけようとしている。
●告白された相手に対し、「絶対に心変わりしないこと」を付き合う条件として課す
→振られた時に、相手の責任になすりつけようとしている。
→次の記事:「秘密主義(その3)-大切な人とのコミュニケーションにおける秘密主義者の行動と心理|人間関係における人の行動と内心のメカニズム」
←前の記事:「秘密主義(その1)その意味と性質-人間関係において、自分のことを知らせない、話さない|人間関係における人の行動と内心のメカニズム」
「【教材】人間関係における人の行動と内心のメカニズム」のトップに戻る
ここは、Fantasy学部 教室
タグ:秘密主義